エージェント広告に、2つの標準規格が並び立っている
AIエージェントが広告を売り買いする時代のインフラを巡って、2つの標準規格が並び立っている。IAB Tech Labが主導する「AAMP」と、Scope3やPubMaticら企業連合が立ち上げた「AdCP」だ。8月20日、IAB Tech LabのCOO自身が「両者は13の機能で重複している」と認めたことで、この併存が偶然の棲み分けではなく、同じ領域を目指す関係であることがはっきりした。それぞれ何者で、なぜ重複したのか。少し長くなるが、整理しておく価値のあるテーマだ。
何が起きたのか
IAB Tech LabのShailley Singh COOが挙げた重複は13機能に及ぶ。難しく聞こえるが、中身を並べると要するに「広告キャンペーンの最初から最後まで」である。自然言語でのブリーフ受け付け、在庫や商品の探索、メディアプラン作成、価格交渉、発注、支出前の人間による承認、オーディエンスの発見と配信適用、エージェントの身元確認、配信中の意思決定、レポーティング — ブリーフを書いてから広告が表示されるまでの工程のほぼ全域を、両規格が別々に定義している。
Singh氏は「AAMPは配信レイヤーに限定された規格ではない」とも述べた。この一言は、両者の関係を考える上で重要だ。もし役割分担があるなら「うちは配信部分、あちらは商談部分」と説明できる。全域をカバーすると明言した以上、2つの規格は同じ領域で採用を競う関係にあると読むのが自然だろう。
AAMPとは何か — 業界団体の「包括路線」
AAMP(Agentic Advertising Management Protocols)は、IAB Tech Labが2026年2月に正式発足させた標準規格だ。動きは速く、4月の2.0で5つの取引タイプを追加、7月30日の2.3では「AIエージェントが人間の承認なしに使える金額の閾値」や価格の来歴証明を仕様化した(当サイト既報)。8月には配信時のリアルタイム判断を扱うフレームワークも確定している。
特徴は守備範囲の広さだ。プログラマティック広告だけでなく、テレビのスキャッター買い付けやデイパート指定まで対象に含む。既存のあらゆる広告取引の形を、エージェント対応に置き換えようとする「業界団体らしい包括路線」である。
主導するIAB Tech Labは、デジタル広告の技術標準を作ってきた非営利団体だ。RTBの共通言語であるOpenRTB、動画広告のVAST、広告詐欺対策のads.txt、欧州の同意管理TCF — 今日の広告インフラの土台の多くはここから出ている。数百社の会費で運営され、加盟社の合意を積み上げて標準化する。強みは正統性と網羅性、弱点は速度だ。
AdCPとは何か — 実装企業連合の「先行路線」
AdCP(Ad Context Protocol)は、AAMPの正式発足より4か月早い2025年10月に立ち上がった。創設メンバーはScope3、PubMatic、Yahoo、Optable、Triton Digital、Swivelの6社。現在は123社超が参加している。
思想が面白い。従来のRTBは「出品された在庫に買い手が入札する」オークションだが、AdCPは買い手のエージェントが要件を伝え、売り手のエージェントが提案を返す「商談型」を志向する。初期リリースはオーディエンス活用・キュレーション・メディアバイの3プロトコルで、オープンソースのガバナンスを敷いて特定企業の支配を防ぐ建て付けだ。
中心にいるScope3は、プログラマティック広告の生みの親の一人であるBrian O’Kelley(AppNexus創業者)の会社で、広告のカーボン測定からエージェントインフラへ事業を広げてきた。PubMaticは上場SSPだ。つまりAdCPは「動くコードを先に出して事実上の標準を握る」実装企業連合であり、強みは速度、弱点は特定企業色への警戒感ということになる。
なぜ13機能も重複したのか
両者とも土台にAnthropicのMCP(Model Context Protocol)を使い、同じ業務範囲 — ブリーフから配信まで — を覆おうとしたからだ。出発点が同じで目的地も同じなら、道が重なるのは構造的な必然で、語彙の偶然の一致ではない。
すでに現実の対応も始まっている。デジタルOOHのVIOOHは両方の規格に登録するという「二重登録」を選んだ。PubMaticは8月にAdCP経由トラフィックの検証ガードレールを出しており、これはAdCP側にすでに実トラフィックが流れていることを意味する。
実務でどう効くのか
- 標準が割れている間のコストは、最終的に買い手が払う。過去のVAST/VPAIDやheader biddingの経緯、OpenRTB 2.6のCTV対応が実証まで4年かかった前例を踏まえると、収束には1〜2年を見込むのが現実的
- エージェント広告ツールやSSP/DSPの選定では「どちらの規格に、いつから対応するか」を確認項目に加える。VIOOH型の両対応ベンダーが当面は安全牌
- 自社でエージェント接続を作る場合は、どちらか一方に密結合させず、間に抽象化レイヤーを挟む設計にしておくと、収束後の乗り換えコストを抑えられる
- そして俯瞰すれば、複数の標準が生まれること自体が「エージェント経由の広告取引が実験ではなく本物の市場になった」ことの何よりの証拠でもある
ひとこと
標準が複数生まれるのは、市場が本物になったときだ。VHSとベータマックスが並んだのは、ビデオがそれだけ売れたからだった。広告エージェントの規格が2つあるという事実は、実務には少々面倒だが、この市場の将来性の証明でもある。
参考リンク
- 発見元: Rival agentic ad protocols overlap on 13 functions, IAB Tech Lab says (PPC Land)
- 公式: Ad Context Protocol
- 公式: IAB Tech Lab
- 参考: The Ad Context Protocol Aims To Make Sense Of Agentic Ad Demand (AdExchanger)
- 関連(当サイト): AIエージェントは「いくらまで」自分の判断で広告費を使えるのか。IABが承認閾値を業界標準に
