「代理店は先を行き、クライアントは追いつかない」— Cannes後に残ったAI格差の正体

Digidayが7月6日、Cannes Lionsで取材した代理店経営陣の証言として「代理店とクライアントのAI格差は、縮まるどころか広がっている」と報じた。ある独立系ホールディングスのCEOによれば、自社のAIプラットフォームは5四半期連続で3桁成長する一方、CMOは「実際にAIで作っている層」「やりたいが方法が分からない層」「凍りついている層」「一過性の流行だと切り捨てている層」に4分割されているという。ただし発注側の言い分を聞くと、この話は「CMOが遅れている」で片づくものではない。

代理店側の不満は、Cannes期間中の複数の証言に共通していた。Cheil Agency NetworkのCEOジョー・マグリオ氏は「マクロで見たAIの総括は、代理店がブランドより先を行っているということだ。代理店はアーリーアダプターである」と述べている。別の大手独立系のCEOによれば、話をした広告主の多くは「自分たちは他より遅れている」と感じており、より深刻なのは格差そのものよりも、その埋め方について誰を信じてよいのか分からなくなっている点だという。Cannesでは誰もがプラットフォームと実績とデモを持っていた。だが、CMOが自社の取締役会の前で責任を持って語れるものは、ほとんどなかった。

あるホールディングスの幹部は、クライアントの問いの立て方そのものを問題視する。典型的なブリーフは「御社にはエージェントが何体あるのか」に固執しており、「それで何をどう測るのか」にはならない。エージェントの数を、進捗の代理指標として扱ってしまっているという指摘だ。「額面通りの自動化は、底辺への競争になる」と同氏は言う。

だが、CMO側が語る制約は「やる気の欠如」ではない。

データガバナンス、調達、法務承認は、代理店のロードマップが想定しない速度で動く。ある事例では、セルフサービス型のツールを1つ解禁するために、クライアントのサイバーセキュリティ審査を通す必要があった。予算も追いついていない。すでにフラットか縮小しているマーケティング予算の中でAI実験の原資を捻出しようとしており、ROIが表に出るのは3〜6か月後、そもそも出てこないこともある。さらに、CIOがインフラの意思決定に埋もれている企業では、CMOがマーケティングに限らず全社のAI戦略のデフォルトの持ち主にされつつある。こうなると「遅れている」というより「トリアージしている」に近い。

ここで重要なのは、この格差が技術の性能差ではなく、発注側の意思決定プロセスの構造から生じている点だ。ガートナーのアナリスト、ジェス・ダーヴィン氏は「広告主は多くの透明性を期待している。どこでAIが使われているのかを理解したいので、代理店は正直に『ここでAIを使っている』と示さなければならない」と述べる。広告主が求めているのは、より速い自動化ではなく、説明可能な導入の履歴である。この順序を取り違えると、どれだけ高性能なツールを持ち込んでも、承認プロセスの入口で止まる。

もう一つ、Digidayが慎重に添えている留保も見ておきたい。「広告主は遅れている」という語りは、それを口にする代理店にとって都合がよい。先行していること自体が、そのままピッチになるからだ。加えて、代理店の内部にも断層がある。あるデータ責任者は、メディア側は数年前にAIの清算を済ませた一方、クリエイティブ側は今ようやく追いついている最中だと語る。「代理店 vs 広告主」という二分法自体が、実態よりも粗いということだ。

今後の論点は、事業会社側がAI活用を「ツール導入」ではなく「承認・検収フローの再設計」として扱えるかどうかにある。代理店の能力を使い切れないボトルネックがセキュリティ審査や調達のリードタイムにあるのなら、投資すべきはツールではなくガバナンスの型のほうだ。逆に言えば、その型を先に用意できた企業は、代理店の先行分をそのまま自社の速度に変換できる。次のブリーフを書くとき、「エージェントを何体使うか」ではなく「何をどう測り、誰が承認するのか」を先に決めておく——地味だが、この差が一年後の成果の差になる。

参考リンク

Digiday: https://digiday.com/marketing/agency-bosses-say-the-ai-gap-with-clients-is-only-getting-wider/

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投稿者 Omi

Social Media, Search, Affiliate, E-Commerceなどの 世界的デジタルプラットフォームで25年以上 日本事業のマネジメント(カントリーマネージャー)、 出稿広告主のサポート、営業チームのマネジメント、 媒体企業のサポート、事業開発チームのマネジメント など を長年経験

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